研究
吉川 茜・垣内 千尋
研究内容
1. 統合失調症における思春期発症分子基盤の解明
統合失調症は「思春期」という人生早期に発症し、未だ根治治療が存在しないため、患者さんや家族の苦悩は生涯にわたります。私たちは、統合失調症が思春期に好発する分子基盤について、将来的に疾患の発症予防に繋がる知見を同定すべく、生物学的な研究を進めています。特に、統合失調症のグルタミン酸仮説であるNMDA受容体機能低下仮説は、近年の大規模ゲノム解析結果からも支持され、再び注目を集めています。NMDA受容体は年齢依存的にサブユニット構造が変化し薬理学的特徴が変わることが知られており、この制御に関わる因子が病態に関与する可能性について研究を進めています。
2. 精神疾患の個別化医療に向けた治療反応性を予測する遺伝学的指標の開発
これまで精神疾患患者さんへの向精神薬の有効性や副作用発現の可能性は、実際に服用するまで予測することが出来ず、治療薬の選択は主に主治医の判断に委ねられて来ました。しかしながら、治療開始の段階から最善の治療薬の選択を行うことが出来れば、患者さんやご家族の苦悩を最小限に留めることが出来るのではないかと考え、私たちは、精神疾患の方への個別化医療を目指し、作用機序が未だ不明な向精神薬の作用機序を研究すると共に、向精神薬の有効性や副作用発現の可能性を事前に予測する遺伝子指標の開発を進めています。これらの指標をもとに、将来的に初期治療の段階から安全かつ有効な治療が提供出来れば、患者さんのアドヒアランスも向上し、良好な予後が期待できる可能性があり、臨床に根差した研究に取り組んでいます。
3. 統合失調症における次世代シナプス病態修飾薬の開発
統合失調症の薬物療法はこれまで、主にドパミンD2受容体遮断を主とした神経伝達物質の受容体を標的として行われて来ました。しかしながら、近年の大規模ゲノムワイド関連解析のメタ解析からは、シナプス接着分子や足場タンパク質等のシナプス関連分子の関与が明らかとなり、新たな治療標的分子としての期待が高まっています。私たちは、統合失調症患者さんの縦断的臨床データおよびゲノムデータをもとに、新規治療標的分子となりうるシナプス足場タンパク質をコードする遺伝子の関与を同定し、その分子を標的とした「シナプス病態修飾薬」の開発に向けて研究を進めています。