研究
西紋 昌平
研究の概要
統合失調症は約100人に一人が発症する一般的な疾患です。症状には幻覚・妄想などの陽性症状、意欲・社会活動の低下などの陰性症状、注意力・作業能力や情報処理能力の低下などの認知機能障害がみられます。治療には抗精神病薬を中心とした薬物療法が行われますが、中には複数の抗精神病薬を十分量及び十分期間投与しても症状が改善しない治療抵抗性統合失調症も存在します。
Juntendo University Schizophrenia Project(JUSP)では大沼徹先生を中心に統合失調症の生物学的研究を進めてきました。今後も順天堂越谷病院で加療されている統合失調症患者、特にクロザピンを服用している治療抵抗性統合失調症患者の末梢血を用いて診断・治療反応予測に有効なバイオマーカーの探索研究や抗精神病薬の副作用研究などを中心に行っていきます。
また、統合失調症の生物学的研究の他に睡眠研究にも取り組んでいます。私は留学先でマウスに天然化合物を投与し、その睡眠あるいは覚醒効果を検証する基礎研究を行ってきました(図)。今後は不眠症患者を対象に質問紙表とウェアラブルデバイスやセンシング技術を活用した睡眠に対する主観的及び客観的評価を行っていきます。
研究内容
1. 妊娠中薬物曝露の胎児への影響
多因子疾患である統合失調症はその複雑性から様々な診断・予測マーカーの研究がなされていますが、依然として有用なバイオマーカーの検出には至っていません。これまでに治療抵抗性統合失調症では血清あるいは血漿中の炎症性バイオマーカーが上昇していることがいくつかの研究で報告されています。我々は過去に急性増悪期の統合失調症患者における血清sTNF-R1がその後の治療反応予測マーカーになる可能性を示しました (Nishimon et al., 2017)。本研究では統合失調症の炎症性仮説に注目し、特に治療抵抗性統合失調症に対して炎症性バイオマーカーを測定し、その病態を反映するマーカーの確立を目指しています。
2. 治療抵抗性統合失調症患者におけるクロザピンと代謝性副作用の関連性
第二世代抗精神病薬の中には体重増加、インスリン抵抗性・高血糖、脂質代謝異常などを引き起こすものがあります。特にクロザピンやオランザピン内服中の統合失調症患者は他の抗精神病薬に比べて脂質代謝系の副作用をきたしやすいとされています。本研究ではクロザピン内服中の治療抵抗性統合失調症の患者を対象にクロザピンが代謝性パラメータに及ぼす影響について検証しています。
3. 不眠症患者に対するウェアラブルデバイスを用いた睡眠評価に関する研究
ウェアラブルデバイスは昨今の健康志向から老若男女問わず多くの世代から注目されており、安価で購入しやすいことや専門家でなくてもデータを理解しやすいことなどの利便性があります。一方で睡眠ポリグラフ検査(PSG)や医学研究用の手首装着型アクチグラフィと比較して精度や信頼度が劣ることはよく指摘されています。実臨床において不眠症患者の睡眠状態は睡眠日誌や睡眠質問表などから評価することが一般的ですが、体感的に判断しなければならない睡眠潜時や中途覚醒時間を記録するのは困難です。本研究ではウェアラブルデバイスを用いて睡眠を可視化し、従来の睡眠評価法との比較検討を行うことを目指しています。